アパートに

私が今住んでいるアパートは昭和26年に出来たそうだ。
大家のばあさんは90歳。昭和61年に旦那をなくされた。
ばあさんの旦那さんは永井柳太郎さんという
ウルトラQなどに出とられた俳優だ。
昭和のにおいがツーンとする三畳一間の風呂なしアパート。
家賃は一七〇〇〇円。家の近くにある駐車場二五〇〇〇円。
駐車場より安い物件にいる。
富士山の絵が奇麗な風呂屋が近くにあったけど、3年前、そこは普通のワンルームマンションに変わった。

アパートにいまだにいるのは、貧乏人の映画監督とか、役者とかそういうたぐいの人が
すんでいるんだけど、まあ、かれこれ7年もここに住んでいると、大家さんとも仲良くなる。

今まで、大家さんは地元の不動産屋に仲介してもらっていたが、
数年前のある夏、部屋を開けっ放しにして、フルチンで裸になる男がいて、
彼に嫌な思いをした、数人が部屋を出た。
それで不動産屋さんを通さなくなり、部屋に住む人がいなくなった。

それで、このアパートを友達とかにいろいろはなしていたところ、
日本以外に拠点を持っている日本人の写真家や映像の作り手が
仕事で数ヶ月ちょっと東京にいたいんだけど、部屋借りるとそれだけでも金がかかるから
部屋を数カ月使いたい人だけ、このアパートをつかわせるのはどうかとなった。

だけど、だれでもいつでも入っていいというわけじゃないから、
部屋を貸し借りするときは仲介業者が入らないといけないらしい。
不動産屋をやっている友人に仲介を頼んで、数か月、部屋を貸してもいいかと大家に聞いてみた。
「まあ、誰も入らないよりもまだましだから、あんたが紹介する人ならいいよ」という。
あとあたしの人生もどのくらい続くかわからないけど、人がいないアパートもいやだと。

私は、このアパートをつぶして駐車場にしたほうがもうかるんじゃないの?と
かつてばあさんに聞いたことがあったが
「あたしが生きている間に、じいさんと暮らした家を潰して、あの世で何ていわれると思っているの」
そう言われた。
こんな人がいるから、昭和のにおいがする骨董品みたいな物件が残ってるのね。